第2回絵入百科事典研究会では、楊 世瑾(大東文化大学)・李 杰玲(国際日本文化研究センター)・倉橋正恵(立命館大学)の3名が研究成果を報告しました。
〈研究報告の概要〉
楊 世瑾「『訓蒙図彙』寛文版本から元禄版本へ―大衆化の位相をめぐって―」
『訓蒙図彙』の寛文版本と元禄版本における項目の分類や、版面の構成の比較によって、『訓蒙図彙』の大衆化の過程を明らかにした。寛文版本に比べ、元禄版本では漢文体から漢字仮名交じりの草書体に変化したことや、項目の増補や細分化が行われ、一項目あたりの版面が小さくなっていることがわかる。
報告の内容について、後に出版された寛政版本との関連や、元禄版本における知識の増補の背景、また寛文版本において中村惕斎が漢文体を採用した理由などの指摘があった。
李 杰玲「絵及び言葉における「時間」の表現について:日本と中国の怪奇物語を例として」
日本と中国の怪奇物語における時間の意識とその表現について、孫右衛門の怪談と欗柯山説話との比較や、佐用姫と望夫石の伝説の比較によって検討した。前者の比較では、時間の経過の表現するものは、孫右衛門自身と朽ち果てた斧の柄という相違があること、後者の比較では、説話の注目点が佐用姫伝説は女の運命の悲しさであるのに対して、望夫石では悠久の時間であるという相違があることがわかる。
報告の内容について、孫右衛門が天狗とする場合と仙人とする場合があること、近代に始まった説話研究の流れを抑える必要があること、説話の内容が民間説話なのか、他国のものを翻案したものなのかを考える必要があるなどの指摘があった。
倉橋正恵「節用集形式の劇書―『戯場節用集』を中心に―」
江戸時代に出版された節用集形式の劇書のうち、『戯場節用集』と『都会節用百家通』の内容の対応について、18世紀後半~19世紀初のパロディ劇書の流行という背景とともに検討した。この時期には歌舞伎が民衆の生活に浸透し、町人層における歌舞伎人口がピークを迎え、わかりやすく、面白く芝居の知識を伝えるために啓蒙書が使われた。
報告の内容について、発行部数、価格、地方での流通の状況や、パロディによって知識を与えることと、そこに笑いの要素があることとの関連、パロディのフォーマットとして『訓蒙図彙』が選ばれていないことなどの指摘があった。