本プロジェクトについて

本研究は言葉と絵を備えた書物を介した文化の交流・継承を検討するものである。

前半3年間においては、「キリシタン文学の継承」という視座から1860年代から21世紀までに来日した外国人宣教師が日本語で刊行した作品群を、成立、出版、流布、受容の側面において検討し、近代日本の宗教、思想、言語、文学、美術に与えた影響を解明した。

後半3年間では、絵と言葉を備えた書物が和・漢・洋の文化交流に果たした役割、あるいは時代を超えて知識や情報をいかに継承させたのかという点に重点を置き、研究を進める。研究の核となるのは「絵入百科事典」的書物である。代表的な書物として「我が国最初の絵入百科事典」とされる寛文6年(1666)『訓蒙図彙(きんもうずい)』が挙げられるが、同書に類する「図彙もの」の書物を主な対象とする。

絵と言葉を備えた書物は、知識や情報を把握し、固定化するために重要な役割を果たした「実用書」であった。姿がわかっても名称がわからない子どもや初学者にとって有用な書物はまた、日本語を十分に理解できない外国人にとっても日本の事物を知る上で重要なツールであった。ケンペルやシーボルト、外国人宣教師など多くの外国人に重宝され、南方熊楠や白井光太郎など近代の博物学者の学習にも用いられている。知識・情報を習得する下支え的役割を果たし、また地域や時代を超えてそれらを伝達する媒介であった絵入百科事典を研究することで、近世・近代の書物文化を再検討する新しい視座を提供することが可能である。

そこで、本研究ではこれらの書物が、どのように江戸から近代における「知」を支える裾野を拡げていったのか。あるいは、西洋、中国と日本双方の情報をどのように繋いだのかという「問い」をたて、世界地図、人物図、翻訳、服飾、異国との知識交流などの視点から考察を行う。

研究期間:2016年4月~2022年3月
研究代表者:山田 奨治